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知らなくてもいいことだってある:真相

真相
真相
posted with amazlet on 06.10.18
横山 秀夫
双葉社

久しぶりに横山秀夫さんの作品を読みました。これは横山さんお得意の短編ミステリー集ですが、今回は警察官や警察関係者ではなくって、犯人だったり被害者家族だったり失業者だったり体育会だったり・・・。
限られたページ数の中で、登場人物の葛藤や事件の背景、そして街並みまでをしっかりと描ききる腕はさすがだと思います。
登場する人物だってごくありふれた人間ばかり。横山さんが描く等身大の人間たちの心の動きや表情が、まるで自分の目で見たかのよう、あるいは映画のスクリーンのように、網膜の裏に映し出されます。


横山さんが描く地方都市って本当にリアルで、そこに流れる時間の速さ(遅さ)まで感じることができます。そんな地方都市で起こる小さくはないけどきっと大都市で大きく報道されることのない事件、その後明るみになる事件の真相を巡って、5つの人間ドラマが展開されています。そして最後の最後、ちゃんと意外な、でも決して奇抜でない「真相」が用意されています。


あたしが一番好きなお話は、第4作品目の「花輪の海」。体育会空手部の1年生たちは、合宿で先輩やOBたちの理不尽なしごきにあっていました。部を辞めたら嫌がらせにあって大学にも来られなくなるため、辞めるに辞めれずにしごきに耐えていました。
そんなとき、1年生部員のひとりが海で溺れ死んでしまって、それで合宿は中止になって、しごきも収まったのです。
主人公の城田輝正が一生のうちで一番うれしかったのはその瞬間でした。ひどいですよね。でもそのことを誰か責められますか? 
その同期がとあることをきっかけに久しぶりに集まることになったのですが、そのことでその部員の溺死には、とんでもない真相が隠されていることが明るみになるのです。それは本当に救いようがなくって、ただただ理不尽で・・・。


真相って本当に知らなくちゃいけないことなのでしょうか。中には知らないほうがいいことだってあるし、真相が必ずしもひとをハッピーにするとは限らないのならば、そっとそのままにしておいたほうがいいはず。それでも人間は本当のことを知りたいって思う。たとえそれが残酷なことだとわかっててても。


評価はさすがの★★★★★です。