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救われること、救うこと:夜想

夜想
夜想
posted with amazlet on 07.06.13
貫井 徳郎
文藝春秋 (2007/05)
売り上げランキング: 4141
おすすめ度の平均: 4.5
5 読みやすい作品でした。
4 救う人 救われる人
4 考えさせられました。


貫井徳郎さんの新作、『夜想』を一気読みしました。
帯に「名作『慟哭』から十四年。ふたたび<宗教>をテーマに、魂の絶望と救いを描いた雄渾の巨篇。」と書いてあり、『慟哭』で衝撃を受けたあたしは居ても立てもいられずに購入したのです。


慟哭』と同じ、叙述トリックが仕掛けてあるのかと思って疑いながら読んでたんですが、実際はとても読みやすいストーリーでした。でも貫井さん独特の重さがあって貫井ワールド全開で、帯のコメントに偽りなしでした。


交通事故で妻と子を亡くした雪籘は、失意の底で日常を過ごしていましたが、ある日、自分のために泣いてくれる少女・天美遥と出会います。彼女の特別な能力―――物に残った残存記憶を読み取る能力―――を知った雪籘は、彼女に救われた気がし、彼女の力をもっと他の人にも知ってほしいと思うようになります。遥自身もつらい過去を持っているのですが、自分の父親と同じように、誰かのために力になりたいと考えるようになっていきます。
雪籘のサポートによって遥の能力は徐々に世間に知られるようになり、やがて遥の能力を信じる人々が集まってきます。そんな折、かつて宗教団体の幹部を務めていた笠置という人物が雪籘の元に訪れ、遥たちの集まりの組織化が始まるのです。
団体名は《コフリット》。コフリットの中には雪籘の考えと一致しない者たちも現れ、徐々に雪籘はコフリットの中で浮いた存在になってくるのです。
その雪籘と遥たちのお話とは別に、嘉子という女性のお話が展開します。嘉子は母子家庭で、娘亜由美とふたりで暮らしていたのですが、亜由美が家出をして家庭崩壊をしてしまうのです。
亜由美を探して東京に出てくる嘉子。嘉子が最後に頼りにしたのは占いでした。そして康子は遥の元を訪れます。しかし遥には何もしてあげられなかったのです。
そして数日後、悲劇が起こるのです。
絶望と狂気の中、暗闇を再びさまよう雪籘でしたが、最後の最後、姿を消した遥と再会を果たして、自分が救われたと思っていたことが実際は救う立場であったことも知るのです。


幾重にも重なった伏線も見事ですが、人と人の想いと行動や、偶然と必然の入れ混じったストーリー展開は見事の一言です。読後感も悪くありません。人々をだましたりしてお金を巻き上げたりするカルト宗教の話になるかと思ったら、ぜんぜんそんなことはなくって、他人を救いたい、救われたいという人々の強さと弱さをストレートに表現した珠玉の一冊だと思いました。


もしかしたら直木賞の候補になるかもしれません。それくらいの(って言っても直木賞自体、もうどうでもいいタイトルではありますけど)名作じゃないでしょうか。
評価はもちろん★★★★★!!!!