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悲哀のミステリー:水底の森

水底の森 上 (1) (集英社文庫 し 39-2)
柴田 よしき
集英社 (2007/08)
売り上げランキング: 26729


水底の森 下 (3) (集英社文庫 し 39-3)
柴田 よしき
集英社 (2007/08)
売り上げランキング: 25829


柴田よしきさんの「水底の森」が文庫になったので早速購入しました。
物語は、とあるアパートの一室で顔のない死体が発見されたことから始まります。その部屋の住人の高見健児・風子夫妻の姿はなく、健児は翌日に他殺体となって発見され、風子は行方をくらますのです。
その風子を追うのが刑事の遠野要。ある人物を探す風子と、それを追う要のストーリーが並行して流れていき、二人は奇妙な逃避行をすることになるのです。
風子に関わったさまざまな人々の人生が交錯し、登場人物たちを結ぶ糸が複雑に絡み合う。その中に幾重にも偶然と必然が折り重なるように悲劇が生まれていくのでした。


ミステリーの謎解きの要素が綿密に練られていて、一本調子のサスペンスものとは一線を画す佳作に仕上がってて、後半で薄皮をはがすかのように徐々に謎の真相が明るみになっていく様子がとてもリアルで、ページをめくる手が止まらなくなります。そして真相はとっても意外なものだったので、思わずうなってしまいます。
その一方、風子の悲しく数奇な運命に翻弄されて生きるお話にとても惹きつけられました。風子を追う遠野要が破滅に向かって突き進むのですが、煮えたぎる怒りを抑えきれなくなり衝動的に行動してしまう様が、心が冷めている風子と対照的に描かれていて、とても印象的でした。
物語の終わりはとても切なく、悲しいものでしたが、タイトルにある「水底」というものが、冷たく深く澄んでいる風子の心の中を象徴的にあらわしているかのようです。


ミステリー作品としてはもちろん、恋愛、孤独、自由・・・様々な思いが描きこまれているすばらしい作品でしたし、これだけの長編作品をブレずに描き切る柴田よしきさんの筆力に脱帽するほかありません。
というわけで、文句なく★★★★★