藤田 宜永
新潮社 (2005/08)
売り上げランキング: 49252おすすめ度の平均:世代の感覚、価値観の差
ドタバタ東京散歩
散歩小説
ミステリーの要素たっぷりの「散歩小説」。
主人公の竹村文哉は不幸な人生を歩み、今は借金取りに追われている日々を送っている。そんな折、福原愛一郎という人物が文哉の前に現れ、吉祥寺から霞ヶ関まで一緒に歩いてくれれば、百万円をあげると言い出すのです。行き場所もない文哉はいやおうなくこの東京散歩に付き合うことになります。いろいろ寄り道をしながら霞ヶ関に向かう文哉と福原ですが、文哉が好意を寄せるストリッパーの美鈴を助け出すことになるのです。そして衝撃のエンディングが待っています。
架空の街ではなく、現実の街を見事に描写しきる藤田さんの筆力にとにかく脱帽。猥雑な池袋、雑然とした住宅街、実際に存在する建物などをうまく取り入れて、本当に文哉と福原と一緒に東京を散歩している気分になります。淡々とした文章ながら、気が付くとページを送る手が止まらなくなってしまっていました。文哉の美鈴への一途な想い、福原の悲しいまでの妻への愛情、そして麻紀子が抱く母親としての感情・・・。
さすが直木賞作家だなぁ。藤田さんの本はこれが二作目だけど、あたしにとってのとっても大切な作家さんがまたひとり増えました。
評価は★★★★☆。ちょっとだけポイントを下げたのは、最後を「尼寺」っていうところに逃げちゃったこと。もうちょっと現実的な対応はできなかったものなのか、ちょっとだけ拍子抜けしたので。