おすすめ度の平均:胸詰まる思い、おどろおどろしさ
面白かった!
少し誤解を生む部分あるが、深い考察と構成の有る秀作
あたしの大好きな奥田英朗さんの本です。
奥田さんとの出会いは、『最悪』っていう本で、直木賞を取る前。実のところあんまし評判にもなってなかったように思います。タイトルと裏表紙のあらすじに惹かれて偶然買ってしまって、それ以来ハマリっぱなしです。
で、この本は、『イン・ザ・プール』や『空中ブランコ』と同じように心の病を持った人々がいっぱい出てくる連作短編集で、もちろん奥田ワールド全開!
ただしもちろん伊良部先生は出てきません。ゲラゲラ笑える伊良部先生のシリーズとちがって、こっちはもっとダークでシニカルでエロい淫靡なお話でした。エロ度はたいしたことないけど、あたしはしっかり濡れました(笑)。
このお話、やっぱり奥田さんの書く話なので、「まとも」な人間はひとりたりとも出てきません。みんな変な人ばかり。でも考えてみたら「まとも」な人間なんてどのくらいこの世にいるんでしょう。きっとあたしもおんなじなんだなぁって思ってしまいました。
どんな状況におかれても、ひとは生きていかなくちゃなんない。けど生きてく理由を見出せないことだっていっぱいある。そんな時、プライドを捨てて開き直るか、自分を守るために殻に閉じこもってしまうか、プライドを守るために逆に恥をさらすか、あるいは自暴自棄になるか・・・。
そんな人間たちが各短編にそれぞれ登場し、彼らが微妙に重なってて、話が続いていきます。確かに笑えるんだけど、ゲラゲラって感じじゃなくて、皮肉っぽい冷笑っていう感じで、読み進めるとだんだん切なさも募っていきます。
最後は(以下、ネタバレ)死んだと思ってたはずの登場人物たちが集結して、一気に話がひとつの点に集約されていきます(ネタバレ終わり)。
ハッピーエンドでもなく、バッドエンドでもなく、結局これからも変わらない日常が続いてく、最後の最後まで切なさが続く終わり方でした。
冷たい言い方をしちゃうと、そういう状況に甘んじちゃってる人々。
でも、それを責めることなんて誰もできやしないんですよね。幸せなんてしょせんはその人の主観的な尺度でしか測れないんだから。
評価は★★★★☆。こういう作品もあっていい。