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卑劣な犯罪者たちへ:闇の底

闇の底
闇の底
posted with amazlet on 06.10.09
薬丸 岳
講談社

天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞した薬丸岳さんの受賞第一作です。
江戸川乱歩賞を受賞した後の最初の作品でその作家さんの本当の実力が見えるものと思いますが、この作品は受賞作にひけをとらないすばらしい作品になりました。


サンソンと名乗る連続殺人犯は、幼女が殺害されるたびに、同じような犯罪を犯したことのある人間を殺害していくと予告、この劇場型犯罪に日本国民は騒然。国民の多くがサンソンにシンパシーを抱く中、警察とサンソンの戦いが始まります。
そうした中で24年前、妹を殺害された経験を持つ長瀬という刑事がサンソンの捜査に参加し、ふとしたことがきっかけでサンソンからコンタクトされ、事件の核心に巻き込まれてしまいます。サンソンとはいったい誰なのか、そしてサンソンの真の目的は何か。そして事件は意外な結末を迎えるのです。


前作は少年に娘を殺害された遺族を通じて少年法問題を描いたのに対して、今回は少女を狙った性犯罪者を描いていて、ともに現代社会で大きく問題になっている犯罪を取り上げています。きっとしばらくこういうテーマを手がけていくことになるのだと思いますが、わずか2作目でここまでしっかりとした作風を構築できているのはさすが。
しかも、今回は劇場型犯罪という大エンターテインメントに仕立てた上に、無差別殺人を繰り返す「サンソン」を誰だか明かさないで最後まで引っ張るというサスペンスとしてもしっかり読ませ、性犯罪の被害者・加害者両方の立場から犯罪というものを描いて、現代社会が抱える問題点をクローズアップさせています。ちょっと奇麗事に走りすぎてた前作よりもはるかにスケールが大きくなってて、その内容も構成もより完成度が増しています。そしてリーダビリティーも大きく向上・・・ちょっとほめすぎかもしれないけど。


思わせぶりな叙述トリックっぽい複線に惑わされながら、最後の最後に明らかになったサンソンの素顔。そして最後に明らかになったサンソンの真の目的は、すごく意外なんだけど、子を持つ親として・・・とても悲しい選択でした。


さっきまでベタ褒めしておいてケチを付けるのは気が引けちゃうんだけど、エンターテインメント、社会派ミステリー、サスペンスという様々な要素をうまく取り込んではいるものの、ページ数が絶対的に足らないので、本当はもっと盛り上がっていい後半がサラッと流れちゃってる気がします。小説って言うのは時間の経過とページ数は比例させる必要はないのだけど、短い時間に起きたことはページ数も少なめになってる気がする。実際にはそうじゃないのかもしれないけど、そういう印象を持ってしまうくらい後半がアッサリしちゃってるんです。一番盛り上がるクライマックスも淡々と流れてしまってます。もっともっと状況説明----たとえば照明の明るさとか壁の素材とか風の音とか湿度とか----とかを詰め込むことでリアリティと重苦しさみたいなのを強調できるはず。


そして、ページ数の少なさの影響は人物描写の甘さとして一番でちゃってて、本来なら長瀬刑事の心理描写にもっともっとページを割くべきだったように思います。これは『天使のナイフ』でも同じだったんだけど、これは枚数制限のある江戸川乱歩賞だから仕方がないという面もありました。でも今回はそういう制約がなくなったのだから、もっと長瀬刑事の描写をもっと詳しくすることで、物語に厚みが出るはずだと思うのです。


評価はとても残念だけど★★★★☆までにしておきます。
単行本287ページなんだけど、この倍くらいのページ数あれば、もっと盛り上がったのになぁ。そういう点でとてももったいないねって思っちゃいました。