荻原 浩
新潮社 (2004/07/01)
売り上げランキング: 75,871おすすめ度の平均:「県庁の星」よりおもしろくて、実際に近い
この渋さは大切だ
働く理由
荻原浩さんの『メリーゴーランド』です。
あらすじは、民間からユーターンして、中途採用で田舎の地方都市の市役所に勤務する主人公・遠野啓一が、赤字続きの第三セクターのテーマパーク「アテネ村」を立て直すために奔走するお話です。
真保裕一さんが得意とする小役人モノかなぁって思ったら、とんでもないバラエティ小説でした。イメージ的には同じ荻原さんの『神様からひとこと』と『なかよし小鳩組』に似た感じのお話。
啓一は「アネネ村リニューアル推進室」に異動となって、ゴールデンウィークのアネネ村イベントを任されるハメになってしまうんだけど、お役所体質がことごとく障害となって啓一の前に立ちふさがります。
ココに出てくる公務員は本当にロクでもないひとたちばかり。
かなりデフォルメ入ってるんでしょうけど、大なり小なりこんな感じなんだろうなって納得させられる。
新しいことをしようと思えば「前例がない」という論理も何もない理由でつぶされて(何でも最初は前例がないんだよ)、トップが替わると白いものが一瞬で黒くなり(これは民間でも変わんないけど)、利権や天下り先の確保に奔走して経済性は無視して(経済性だけが是じゃないけど)、何もしなければ失敗もないっていう事なかれ主義が横行し・・・。
啓一は前例を無視して何とかアテネ村のゴールデンウィークのイベントを成功させるんですけど、成功させたらさせたで風当たりは強くなるのです。
そもそもこのリニューアル推進室自体、次の選挙をにらんでの市長の人気取り企画でしかないから、成功させた啓一は市長派のレッテルを貼られてしまって、挙句の果てには泡沫候補の市民運動出身女性候補(ありがちだなぁ)が当選すると、アテネ村は廃止の憂き目にあってしまうのです。
タイトルにもなってて、エンディングで出てくるメリーゴーランドがこのお話の象徴になっています。つまり役所の仕事はどうどう巡りのまさにメリーゴーランドのようだってこと。しかもちっとも楽しくないオンボロのね。
箱物を建てて予算を使い切ることしか考えてないような公共団体、年金を自然に湧き出てくる自分のサイフのように浪費する社会保険庁の体質、自分たちが握る予算を自分たちの保身の道具としか考えてないような防衛施設庁、民間とまったく勝負にならない数多の独立行政法人・・・・などなど、これを読む限り、しかたがないのかなぁって思っちゃう自分が哀しい。
ユーモアだけどシリアス。
まさに荻原浩の描く独特の世界です。
評価は★★★★☆。厳しいと思うけど、
最後の最後、啓一の見せ場がほしかったです。逆転一発とか、辞表を叩きつけるとか、キレて叫ぶとか、そんなんじゃなくていいけど、なんか終わり方がモノたんない(『ママの狙撃銃』でも書いたような気がするけど)。
哲平がお父さんの仕事について書く作文はなくなっちゃったけど、せめて哲平がお父さんの仕事をどう評価したかが知りたかったかな。
『県庁の星』っていう本が映画やマンガになって話題を集めてて、あたしもマンガのほうは読んだことあるけど、こっちのほうがもっとシリアスだと思うから、ぜひみなさんに読んでもらいたい一冊です。