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お金に色などない:ハゲタカ

ハゲタカ(上)
ハゲタカ(上)
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真山 仁
講談社 (2006/03/15)
売り上げランキング: 55
おすすめ度の平均: 4.5
5 バブル崩壊後の日本経済のダイナミズムを描く
5 現実の銀行マンの苦悩
5 一気に読めます


ハゲタカ(下)
ハゲタカ(下)
posted with amazlet on 07.03.12
真山 仁
講談社 (2006/03/15)
売り上げランキング: 54
おすすめ度の平均: 5.0
5 いまどきは
5 綿密な取材に基づいた生々しい描写が魅力


NHKのドラマも終わり、あたしも文庫本を手にしました。話題の『ハゲタカ』です。


お話はいきなり倒産した会社の社長さんが大蔵省の中で割腹自殺する衝撃的なシーンから始まります。そしていきなりピアニストを目指している青年が登場し、また数年後に彼が日本に降り立つのです。その名は鷲津政彦。ゴールデンイーグルの異名を持つニューヨーク投資ファンドのパートナーとしてホライズン・キャピタルの社長として、バブルの後遺症に苦しむ日本に、まさに舞い降りた‟ハゲタカ”でした。
まずは不良債権を二束三文で買い叩き、放漫経営をしていた経営陣を放り出し、企業を再生させたり事業をバラ売りしたりするなど、日本の資本ではできないような方法で冷徹に高い収益を上げていくのです。
その一方で、財閥系の三葉銀行のエリート行員の芝野健夫は、バルクセールの交渉相手として鷲津に相対します。彼も不良債権処理の手垢にまみれながらも、本当の企業再生ビジネス、すなわちターンアラウンドマネージャーという仕事に魅力を感じているのですが、銀行内の有象無象に翻弄され、理想と現実のギャップに心を失っていくのです。
鷲津は不良債権だけではなく、本格的な企業再生ファンドを目指し、芝野は銀行を辞職してターンアラウンドマネージャーとして歩みだします。
鷲津は驚異的なリターン実績を上げていきます。しかし彼が再生した企業から追い出された経営者はすべてを失い、その中では自ら死を選ぶものまでいます。お話を読んでいると彼が目指しているものは決してひどいものではないのだけど、その結果悲劇が生まれてしまうのはなぜなのでしょう・・・。そこまで彼が日本に思い入れをし、その反作用として日本を憎む理由は、とても意外であり、とても深いものがあったのです。


あたしも外資系の企業――――といってもうちも海外の企業に買収(資本参加)されて外資になったのですけど――――で働いているのでわかるのですけど、外資はとにかく相手の手法を聞きません。理解しようとしないのもあるけど、理解できないのです。だから自分たちの手法や価値観を一方的に押し付けてきます。だから日本での外資による企業買収・企業再生はとても性急で冷徹なもにに映ってしまうのです。しかし彼らも早く結果を出さないと株主に解雇されたり、ファンド出資者が手を引いたりしてしまうのですから必死なのです。
あたしも前の会社やその前の会社で働いていたとき、取引先やライバルの製造業の会社が外資ファンドに買収され、その外資主導でメーカー同士が合併したりして、とても大変そうだった様を傍観していたので、そんな経験もあって、買収された側として他人事ではない気で一気に上下を読みきってしまいました。
リアリティはもちろん、エンターテイメント性も十分。太陽製菓のスポンサーを決めるビット合戦はとてもスリル満点でした。


「お金には国籍もなければ色もない―――――」
結局、誰のお金ではなく、それを誰が使うか、どう使うのかが問題なのでしょう。この『ハゲタカ』の中で、実際に起きた外資ファンドによる企業買収や企業破綻、銀行破綻のエピソードが出てきます。日本のマスコミの報道として外資ファンドは「のっとり屋」みたいに表現されることが多く、多くの日本人が外資ファンドに対してアレルギーを持っていることでしょう。正直、あたしもそのひとりです。
しかし外資がもしいなかったら、今の日本は存在しえたのでしょうか。銀行や企業がバタバタつぶれたり、不良債権処理が進まずにいつまでも貸し渋り貸しはがしが横行したりして、日本経済のメルトダウンが起こっていたかもしれません。もちろんハゲタカファンドのすべてを丸ごと肯定するつもりは毛頭ありませんけど、結局は誰かがやらなくてはならなかったことを、そこまで放っておいた日本人自身の責任を忘れてはならないと思うんです。
それと、銀行は不良債権を整理できたうえに僅かでも売却金が入り、ファンドは再生して次に売却することで高いリターンを得て、債務者は債務者でこれ以上債務を大きくすることがなくなり、誰も損をしないというのが、こういう不良債権ビジネスで言われることですけど、これはまったくの詭弁です(これは文中でもちゃんと説明されてます)。つまり低金利や銀行への公的資金投入、法人税の減免という形で、そのつけはすべて日本国民に回ってきてるのですから。


NHKのドラマとはまったく違うお話です。テレビ局の美人記者も出てきませんし、松田龍平さんも出ませんし、鷲津さんは銀行員でもなんでもないです。が、あれはあれでとても楽しかったし、この小説もとてもすばらしい作品です。こういうのってとても珍しいケースですよね。
というわけで、評価は★★★★★。文句なしに満点です。