これまで家族や子供などを中心に描いてきた作品が多かった重松清さんの異色な連作短編集です。
主人公の進藤宏は40歳の絵本作家。でも現実は副業のフリーライターがメインの仕事になっていて、本業の絵本と逆転してしまっている。彼が数年前に書いた「パパといっしょに」という絵本で賞を取るなど、高い評価を受けていたのですが、とある事件をきっかけにして彼は絵本が描けなくなってしまったのです。そんな彼がフリーライターという仕事を通じて、「パパといっしょ」に思い入れのある人々と出会うのですが、進藤が出会う人たちはみな、輝いていた時期が過ぎ去り、言葉は悪いけど落ちぶれてしまっている。
破滅を目前にした起業家、人気のピークを過ぎたアイドル歌手、閉鎖される遊園地のピエロ、痴漢をすることでしか自分を認識できないエリート会社員、老いたSMの女王、ホームレスの夫婦・・・・。人生の下り坂にさしかかった様々なひとたちの生き様を、同じく生計のためにライターという仕事を請け負う中年男性の視点から描いています。
光があれば影がある。この作品で描かれるのは真夏の強い日差しでできた濃い影じゃなく、冬の太陽でつくられるようなやわらかい影。ビルとビルの隙間でもがきながらがんばってるひとたちが抱く哀愁。それを感じながら進藤は自分自身が励まされていく。進藤は彼らに畏敬の念を抱きながら、スケッチブックに絵を書いていくのです。
物語のラスト、手元に残ったスケッチを回転するジャングルジムに括りつけながら、自分が本当に描きたい作品が(おぼろげながらかもしれないけど)見えたのでしょう、どっぷりと哀愁に浸ってる進藤の姿に、シンパシーと感動を覚えました。
それと、この物語に出てくる編集者のシマちゃんの明るさ・無邪気さが、この本をただ単に暗く哀しいものじゃなくしてくれている。シマちゃんが登場するタイミングが実に巧妙で、読んでてちょっと滅入ってきそうな頃、横から元気にカットインしてくるのがいいんですよね。
正直言って、これまで重松さんの作品って、感情のうわべだけをなぞって中年世代の哀愁を描いたようにみせている作品が多いなって思っていました。でも少なくともこの「哀愁的東京」は違っていました。タイトルだけに惹かれて期待しないで買ってしまったのだけど、逆の意味で裏切られましたぁ。
というわけで評価は★★★★☆。もしかしたらこれが本当の重松ワールドなのかもしれません。