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孤独なスポーツだからこそ、仲間が大事:RUN!RUN!RUN!<a name="b">

RUN!RUN!RUN!
RUN!RUN!RUN!
posted with amazlet on 07.01.02
桂 望実
文藝春秋
売り上げランキング: 34994
おすすめ度の平均: 4.0
4 仲間の大切さ
3 ねじれたシューズが内容を暗示している
4 陸上関係の話しが多いですね。

ちょうど大晦日に読み終わってしまったのがこの本です。


県庁の星』や『Lady,GO』を書いた桂 望実さんの最新作。

主人公は長距離ランナーとしてずば抜けた才能と実績を上げている岡崎優。父親は箱根駅伝の栄光の第二区で棄権をしてしまった雪辱を息子の優に託し、息子の優に長距離ランナーとしての英才教育をしてきた。まるで星飛雄馬と一徹親子のように、二人だけで練習をしてきた。それ故優だから他人と協調したりすることなく、誰とも競ることなく成長してきて、ずば抜けた成績をあげていました。孤高の長距離走者。優はその才能ゆえに一匹狼-----といえば聞こえはいいけど、つまりは自分以外の者は誰も信用せず、他人を見下して生きてきた。
そんな優は数多い大学からの誘いの中から科学的トレーニングを取り入れていた新設したばかりのS大学に進学するのです。S大学でも優のスタンスは変わらないどころか、その傲慢さに拍車がかかるのです。飲み会は断り、同僚はおろか先輩までも見下し、自分の専属スタッフ「チーム岡崎」を要求し、周囲からの風当たりはどんどん強くなってくる。それでも優のスタンスは変わらない。典型的な「嫌なヤツ」がこの物語の主人公なのです。

しかし、この優の自信が揺らぐことになるのです。実の兄が突然自殺をしてしまうのです。その兄の自殺にショックを受けた母親は精神のバランスを崩してしまうのですが、その母親から優のショッキングな自分の出生の秘密を告げられるのでした。優は遺伝子操作をされて生まれたということ・・・。正気でない母親の妄想かもしれない。けどもしかしたら自分の能力は人為的に作られたものなのかもしれない。そんな疑問を抱きながら練習する優の成績はまったく振るわなくなってしまうのです。
そんな中、優は箱根駅伝の華の第二区走者に選ばれます。しかし箱根駅伝でもDNA検査が実施されるかもしれないという情報が入り、自分がそれに引っかかってしまっては将来を絶たれると恐れ、優は箱根駅伝出走を辞退します。コーチからは「チーム岡崎」存続の条件として、補欠メンバーのサポート役をするよう命じられます。サポートする相手は優の同級生で、優とはまったく正反対の岩本でした。
最初は渋々サポートをしてた優ですが、その役を通して自分とは違う価値観を知り、仲間の大切さとか、ランナーは決して自分ひとりで走るのではないということを、理屈ではなく実体験として知っていくことになるのです。

何がおきるかわからない箱根駅伝本番。優がサポートしていた岩本が第三区を走ることになったのですが、その前の第二区を走っていた宮尾が大きく遅れてしまうのです。その遅れを取り戻そうと岩本は自分の走りのリズムを乱してしまいます。そして優は自転車で追いかけるのです。口ではコーチに対して毒づきながらも。
そして優は・・・・箱根駅伝を通して知った何かにより、重大な行動に出るのでした。


最初は「嫌味な主人公が仲間に感化されて心を開くだけの単純なお話」かと思っていました。でもその背後にあるのはドーピング問題、スポーツ英才教育による歪み。絵に描いたアマチュアリズムとはまったくかけ離れた今のアマチュアスポーツ。勝てればなんでもアリなの?

薬物を使ったドーピングはNGでも、高地トレーニングはOKなの?
人種によるDNAの違いはそもそも公平って言えるの?
勝つために留学生をいっぱい採用するのは問題ないの?
早いうちからエリート教育をするために集められても、成功するのはほんの一部の人間だけ。そこで結果を出せなかった大多数の者たちの運命は?


実はあたしはアマチュアスポーツはほとんど見ません。高校野球も高校サッカーもマラソンもラグビーも、オリンピックも。なぜってとてもアマチュアといえない一般の人間とかけ離れた環境で育ってきたエリートたちが、アマチュアリズムとかけ離れたもののために戦っているのを見たって全然、感情移入できないから。


軽めの青春小説の姿をしていても、その背後にある大きなテーマは、決して軽くない。前半はちょっと物足りなかったお話が、後半のクライマックスを迎えるのにあわせてアマチュアスポーツの抱える問題を纏め上げ、そして意外な結末を意外な形で用意してるあたり、桂望美さんの「いやらしさ」が良く出ています(笑)。
というわけで、評価は★★★★☆。個人的には読後感が軽すぎたかなって思いました。もうちょっとシニカルな面が強く出てもよかったかなって。でも重い本が苦手な人にはピッタリだと思いました。