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ヒトとチンパンジーの異色なミステリー:さよならバースディ

さよならバースディ
さよならバースディ
posted with amazlet on 06.12.17
荻原 浩
集英社
売り上げランキング: 113973
おすすめ度の平均: 3.0
3 人と<会話>のできるサル、‘バースディ’の知る真相とは?
2 かなりの期待はずれ
4 永いお別れ

久しぶりに荻原浩さんの作品を読みました。山本周五郎賞作品『明日の記憶』受賞後第一作です。
なんとなく縁がなかった本でした。あたし的には「ようやく」って感じで読み始めました。荻原さんの本は相変わらず読みやすくって、単行本でちょっと厚めの本なのに一気に読めちゃいましたね。


舞台は奥多摩にある霊長類研究センターで、そこに勤務する助手の田中真が主人公。彼が携わるのはピグミーチンパンジーの「バースディ」の言語学習の研究。研究をサポートする大学院生の由紀とは恋人どうし。その研究を担当していた安達助教授が理由不明の自殺をしてしまい、真はその安達を引き継いでプロジェクトを推進しています。
バースディはキーボードを使って、真たちと簡単な会話ができるほどに言語を習得しますけど、霊長類センターの他の研究者からはあまりいい目で見られてなくって、野坂教授の宣伝の道具に利用されている程度の扱いしか受けていませんが、人一倍まじめで研究熱心な真は、そんなこと意に介さずにバースディとの研究に没頭しています。そして研究パートナーの由紀と愛を育んでいたのです。


しかし、そんな真と由紀とバースディとの幸せな時間は長くは続きませんでした。
真が由紀にプロポーズをした夜、由紀が理由がわからないまま投身「自殺」をしてしまうのです。
警察の捜査では、由紀はひどく落ち込んでいたらしいのです。真の前ではそんなしぐさを全然見せたことないのに・・・。失意の真はその「自殺」という結論には納得できず、真相を求めて唯一の目撃者であったバースディとの会話を試みるのですが、わずか100語程度の単語しか知らず、空間認識が不完全なバースディとの会話はなかなかうまくいきません。そしてバースディ・プロジェクトも資金面でのバックアップも失い、研究存続の危機に陥ってしまい、真は窮地に立たされます。
そんな矢先、フリージャーナリストの神田からある情報を入手します。霊長類研究センターの暗部、裏金疑惑。その不正と安達、由紀の自殺の関連を真は疑うのです。その疑惑を知った由紀、しかしなぜ自殺をしなくてはならなかったのか・・・。
真の元に送られてきた由紀からの謎のDVD。そこにはバースディとの会話に使う新しいプログラムが書かれていました。これはいったい何なのか。
日に日に弱っていくバースディ、真はバースディをアフリカに返すことを決心し、最後のバースディとの会話を試みるのです。バースディとの会話・・・それは亡くなった由紀との会話でした。そして由紀の自殺の理由とパースディプロジェクトの真相が明らかなるのです。


最初は、ミステリーだなんて思わずに、『神様からひと言』とか『メリーゴーランド』のような、ちょっと切ないユーモア作品だと思って読み始めたんです。
そしたら途中から、由紀の死の理由と研究所の不正を暴くというミステリー作品に変わってしまうのです。しかも聞き出す相手はチンパンジー。この奇想天外な組み合わせがこの本の命。


「ばー」「まこ」「いも」「れずん」「みず」・・・・そんな片言の単語----バースディ語とでもいうべき----でのバースディとの会話はとてもほほえましくって、バースディのしぐさもとてもかわいい! 本当に目の前にバースディが生きて動いてるような錯覚を覚えてしまうくらい、スタディールームや原っぱを駆け回るバースディの姿が描かれています。
そして最後のバースディとの会話は、涙が出てしまいそうになるくらい感動します。


コミュニケーションの難しさ。
真とバースディとの間だけじゃなく、真と由紀、人間と人間も。言葉という便利なツールがあってもそれだけじゃ自分の気持ちは伝えきれない。そんなことを荻原さんは言いたかったのかなぁって思いました。


評価は★★★★☆。
最後まで読んでも安達の自殺の真相もわからずじまいだったのと、由紀が自殺するほどのこととも思えなくって、その分割り引きました。
今回は荻原さん独特のユーモアさがちょっと控えめになってるけど、今後こういう作品が増えていくのかもしれませんね。