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女の友情っていいね:ひとがた流し

ひとがた流し
ひとがた流し
posted with amazlet on 07.01.08
北村 薫
朝日新聞社
売り上げランキング: 5767
おすすめ度の平均: 3.5
3 人から人へと<思い>がリレーされる物語
3 心に余韻の残る作品
4 流れるように

北村薫さんの久しぶりの長編です。

簡単に言ってしまうと、40を過ぎた3人の女性の友情と彼女達を取り囲む家族たちを描く長編小説です。主人公はアナウンサーの千波、作家の牧子、元編集者で写真家の妻となった美々。彼女たちは40歳で、高校からの幼なじみです。また牧子と美々にもそれぞれひとり娘がいます。
それぞれ3人のエピソードが連作短編風に、女性アナウンサーとしての千波の苦心、美々の娘の玲と実は血はつながっていない写真家の夫・類との父娘の関係などが綴られていきます。
ところが、千波は朝のニュース番組のメインキャスターへの抜擢が決まった矢先、気まぐれで入った人間ドックで不治の病が見つかってしまいます。ここからお話は大きく変化していくのです。自分が不治の病に冒されていることを知った千波の前に、鴨足屋良秋という年下の男性が現れます。彼と一緒に残りわずかな人生を全うしようとする千波、それをさりげなく支えようとする牧子と美々。とても素敵で尊い3人の友情を暖かい文章で編み上げた珠玉の一冊です。


北村薫さんの作品は「時と人」シリーズの三部作*1と、数作品しか読んだことがありませんでした。で、このお話も3人の友情と家族のお話だと思って読んでいました。でも千波が病気に冒されたことで、生と死、友情、家族など、とても表情が豊かな作品になったと思います。
北村先生の表現は大好きですし、この作品の構成の巧みさ・・・物語の組み合わせや章を変えるタイミングがとてもうまいんです。そして千波が冒された病気の名前をまったく使わなかったり、死に至る描写をしなかったのは、北村先生の気配りでしょう。その上、「涙」という言葉を使わなかったり、そもそも泣いてるシーンを使ってなかったり、病名を明確にしなったのも、直接的な表現を避けることで逆にリアリティを高める効果にもなったんじゃないかなって感じました。


一番心を揺さぶられたシーンは、骨折で入院していた牧子のもとに、千波が最後の力を振り絞って会いにきて、思い出を語り合ったあと、千波がエレベータで帰り、そのエレベータが戻ってきたときに中に千波がいなかった・・・っていう場面です。
そりゃ帰ったのだからエレベーターの中にいるわけはないのだけど、きっとこれが最後の別れであることを象徴的に表したシーンです。きっと最後に会いに来た千波の姿は、とても気高くそして可憐なものだったと思います。
このシーン、きっと多くの人が泣いてしまうと思うのですけど、北村先生は泣かすつもりでこの本を書いているわけじゃないって思います。それでも涙が止まらないのは、いつの間にか自分を千波、牧子、美々に、重ね合わせて読んでしまっているからだと思うのです。


とても切ないお話なのだけど、読後感はとてもさわやかな、そんな素敵な一冊でした。
評価は★★★★☆。男の友情はいいもんだってばかり言われるけど、女同士の友情だってなかなか捨てたもんじゃないでしょ?



■追伸
あとから知ったのだけど、この作品は荻原浩さんの『四度目の氷河期』とかと一緒に、第136回直木賞の候補作品になっています*2。好きな作品が渡辺淳一や林真理子みたいなエロ作家に蹂躙されるのはあまり気が進まないけど、あたしは北村さんと荻原さんのダブル受賞もアリかなって期待しています。

*1:スキップ』、『ターン』、『リセット』の三作品です

*2:ほかの候補作品は池井戸潤「空飛ぶタイヤ」、佐藤多佳子「一瞬の風になれ」1〜3、白石一文「どれくらいの愛情」、三崎亜記「失われた町」