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金融ミステリーから脱皮した至高の一冊:BT'63

BT’63(上)
BT’63(上)
posted with amazlet on 06.06.20
池井戸 潤
講談社 (2006/06/15)



BT’63(下)
BT’63(下)
posted with amazlet on 06.06.20
池井戸 潤
講談社 (2006/06/15)

池井戸さんっていうと、金融ミステリーで人気の作家さんですけど、池井戸さんが金融以外の作品をはじめて読みました。そして、それはあたしにとってトップ10に入るくらいのすばらしい作品でした。


いわゆるタイムスリップものですが、親子愛を描いた感動巨編でもあり、精神的な病から何もかも失った主人公の琢磨が再び生きる勇気をつかむ再生小説でもあります。
これだけ詰め込んでるのに、とっても読みやすくて、上下巻あわせて800ページ以上もある長編なのに、たった4日で読み終えてしまいました。


あらすじは、こんな感じです。
精神を壊して仕事も家庭も失った大間木琢磨は、亡くなった父の遺品から古い鍵と派手な制服を見つけます。制服に袖を通すと40年前、父の史郎が働いていた運送会社の風景が目の前に広がっていきます。そして琢磨は何かに引き寄せられるように父の時代に行き来するようになります。そこには自分の知らなかった父の人生があったのです。
倒産寸前の運送会社を立て直すために新規事業に奔走しながら、薄幸な女性との恋。そして会社を倒産に追い込む凶悪事件・・・。
琢磨は史郎の人生を追いかけながら、父を、そして自分を見つめなおして、失っていたものを再び取り戻すまでのお話です。


過去と現代が並行して描かれる中で、徐々に真実に近づいていく構成の巧みさ、史郎と鏡子と可奈子の心の交流、成沢と猫寅の狂気、そして運送会社の運命、琢磨と元妻の亜美との関係・・・。
40年前と現在を知る元銀行マンの桜庭がキーマンとなって、40年前と現代とを混乱させずにうまく読者をナビゲートする役目を演じてくれています。この大事な役目に銀行マンを使うあたりがまた池井戸さんらしいのですが(笑)。


物語の中ではBT21と呼ばれる日野のボンネットトラックが呪われたトラックとして登場します。このBT21に関係する4人の運転手が次々と命を落とし、最後には史郎にまでその呪いの魔の手が襲い掛かろうとします。このBT21こそこの物語の「もうひとりの主人公」です。
まるで命を持っているかのように力強く走り回り、数奇な運命をたどりながら最後には琢磨の手元に戻ってきます。


そしてもうひとつ、物語の中で大きな役割を果たすのが「闇」です。昭和39年当時、夜になると都内でも真っ暗になったのだと思います。
その「闇」が、開発途上の東京の下町の夜としてだけじゃなく、敗戦から高度成長に向けて復興してきた日本の裏側の象徴として、人間の心にある弱さの象徴として、先が見えない史郎の人生の象徴として、とっても効果的に使われています。


スリリングで、心がときめいて、懐かしくて、感動的で・・・。
冒頭でもかいたとおり、本当にすばらしい作品でした。
文句なしで★★★★★です。
超オススメ。