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あたしのヒーロー:サウス・バウンド

サウス・バウンド
サウス・バウンド
posted with amazlet on 06.08.26
奥田 英朗
角川書店 (2005/06/30)
売り上げランキング: 1,302
おすすめ度の平均: 4.57
5 やっぱりすごい人だ……。
4 無駄な正義感をお持ちの方へ
5 奥田の筋の通し方


前からずっと読みたいって思ってた本でした。
なぜ手を出さなかったんだろうっていうと、文庫本になるのを待ってたから。あと元過激派っていうのがなんとなく引っかかってしまって。あたしは帯とか裏表紙の解説だけで食わず嫌いしてしまうことが多いのです。たとえば名前が外国人だったり、舞台が海外だったり、思想的な内容が織り込まれていそうだったり。
それでなんとなく避けていたんです。


主人公は中野に住む小学6年生の上原二郎。父の一郎は、昔は有名な過激派だったらしいのだけど、引退した今でも国家権力に縛られたくないっていう考えを素直に押し通す生き方を選んでる。だから税務署や公立学校の先生といつも喧嘩ばかりしてる。それはきっと一郎にとっての「闘争」なのです。
一方の二郎は父の傍若無人ぶりにも困惑しながら、中学生の不良から目を付けられてお金を強請られそうになったりして困ってて、周りの大人も当てにならない。
そんな日常が、居候として転がり込んできたアキラおじさんがある事件を起こしたことをきっかけにガラリ一変してしまいます。
二郎はその事件で学校の先生からも見放されちゃって、結局彼は数多くの困難を自分の力だけで解決しなくちゃいけなくなる。小学生も小学生なりに「闘争」に向かっていくのです。
結局、上原一家は東京にいられなくなって、かねてから父一郎が希望していた南の島に移住することになります。


南の島、西表に引っ越した上原一家は、二郎は西表の伝説の人物アカハチの子孫・・・として勘違いされて大歓迎されるのです。やがて一家は電気も来ていない無人の集落に居を構えます。何にもないけど、豊かな自然と人間の暖かさにあふれた西表。東京とは180度違う価値観に戸惑い意地を張ってしまう二郎ですが、だんだん西表での生活を受け入れるようになってきます。
ようや権力の干渉から開放されて自給自足ができる楽園と思われた西表でも一郎の闘争は続いてしまいます。住んでる場所が東京のリゾート開発会社が買収されていて、その立ち退きを迫られるのです。
その開発に反対する環境保護団体は一郎を利用しようとしますが、一郎はそれを拒否します。
そして一家と開発会社との最終決戦が始まるのです!


西表はおろか、沖縄すら行ったことがないので後半は想像でしか読むしかないのだけど、第一部の舞台になってる中野は、あたしが上京してきて最初に住んだ町(実際は沼袋だったけど)なので、とても懐かしかった。ブロードウェイなんてほんと楽しかったもん。
それと、過激派とか市民団体の「本質」を鋭く風刺してるところが見事でした。大義名分はそっちのけで、内部の派閥闘争だとか世間の注目を集めることしか考えてなくて、結局、上層部がおいしい思いをするために連るんで活動し団体を維持することだけがその目的にすりかわってしまう、あらゆる団体は腐敗するという普遍的法則を。
うちの大学も、時代遅れの過激派と共産系組織がいっぱいいたから、ああいう団体の胡散臭さとかがよくわかる。すでに組織の存在意義なんてそっちのけで、目立つことばかりやってたもん。
一匹狼って言えばかっこいいけど、結局他人とつるむのが苦手で妥協ができない。多数決で意見が埋没されることにガマンできない。一部の人間の意見だけで組織全体の方向性が決定されるのを見過ごせない。少数意見はつぶされて見かけだけの全会一致を繕うのにバカバカしさを感じちゃう。でもひとりで勝手に生きていきたいと思ってもそれは実際には不可能。
だから社会や組織の中でひとは悩んで、苦しんで、諦めて、傷ついて、あるいは見て見ぬふりをして流して生きていくしかない。そうやって人間社会は成立しているのでしょう。
でもこの本の中の一郎は、妥協しないで戦い抜くことをやってのけてしまう。あたしはそれはすごくかっこいいって思う。やりたくてもできないことをやってくれる、きっとあたしにとってのヒーロー。


分厚い本だけど、あっという間に読めました。
いつも言うけど、奥田さんってああいう破天荒な人間を書かせたら日本一なんじゃないかしら。ユーモアの中に物事の本質をちゃんとあぶりだして、ただ楽しいだけじゃない味わい深い作品に仕上げてくれるのです。
評価は文句なく★★★★★です!