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音道貴子シリーズの最高傑作:風の墓碑銘(エピタフ)

風の墓碑銘
風の墓碑銘
posted with amazlet on 06.09.05
乃南 アサ
新潮社 (2006/08/30)

乃南アサさんの音道貴子シリーズの最新作です。このシリーズは発刊順でいくと

  1. 凍える牙
  2. 女刑事音道貴子 花散る頃の殺人
  3. 未練―女刑事音道貴子
  4. 嗤う闇

となるのだけど、今回の風の墓碑銘は『凍える牙』『鎖』に続いての久しぶりの長編です。期待しないわけには行きません。

お話はこんな感じです。
古い家屋の解体作業中の土地から白骨死体が見つかり、前作『笑う闇』で登場した玉城とコンビを組んでる貴子が、その白骨死体の調査に乗り出します。その物件の大家で、認知症だった今川篤行が撲殺される事件が発生し、その捜査本部が玉城と貴子がいる隅田川東署に設置され、金町署に異動していた滝沢が応援で加わって、黄金コンビが復活することになるのです。
こうして、凍える牙でペアを組んだ滝沢刑事と貴子のコンビが久しぶりに復活します。凍える牙では相性最悪だったけど、最後はどうにかわかりあえて、鎖では貴子が大ピンチに陥ったときに滝沢が必死に救出したりして、その後の短編を読んでも貴子は滝沢のことをそんなに悪いふうには思ってないものだと考えてたのに、今回は貴子が思いっきり構えて滝沢に相対してるのがちょっとビックリです。
とにかくこうして撲殺事件を追う貴子と滝沢ですが、事件は一向に解決の兆しが見えません。ところが今川が入ってた有料老人ホームのヘルパー長尾広士の周辺を洗っていたところ、父親と姉が24年前に殺害され、母親が失踪しているという事実が判明、この事実にたどり着いた貴子が「鳥肌が立った」ことで、とっても細い糸ではあるけど、2つの事件が繋がるのです。
そして捜査本部のベクトルがそちらに仕向けられると、組織力を武器に捜査は一気に展開していき、やがて意外な事件の真相が白日の下にさらされるのでした。


前にも書いたけど、貴子も滝沢もそれなりに年齢を重ねて(滝沢は頭がより薄くなって、病気もしちゃうし)、それぞれを取り巻く状況は変わってはいるのだけど、ちゃんと貴子は貴子だし、滝沢は滝沢のまま、再びあたしたちの前に戻ってきてくれた。
そのことが何にも増してうれしい。

もちろん、ミステリー作品としてとても秀逸な内容であることは言うまでもありません。そして地味な地取り操作の中から部分的に浮かんでくる事と、ごく自然に張られた伏線が一気にではなくて、徐々に繋がってきて最後に完全形になるまでの過程の描き方が巧いのです。
そして、居酒屋や聞き込み途中で立ち寄る喫茶店での何気ない会話や、滝沢と貴子との口論、先輩婦警奈苗とのトラブルなどなど、物語の本編とは直接関係ないエピソードや風景が物語のリアリティを増してくれるのですけど、物語が一定のスピードで流れているように感じさせる効果があったと思います-----つまり一気に時計が進まないから、捜査が進まないときはエピソードが多くなったり----。
恋人の昂一のひとりよがりな結論には腹立たしかったし、奈苗の逆恨みにもあきれちゃうけど、こういう箇所も手を抜かないで、でもうるさくならない程度にちゃんと描いてるから、単に事件だけを追うのじゃなくて、ちゃんと本の中の人物から息使いまで聞えてくるかのように、リアルに感じてしまうのです。
真犯人の動機はとても自分勝手なのだけど、破綻もないしご都合主義も感じられなくて、本当にツッコミところのない秀作なのです。


前作までの作品を全部読んでないと最初は正直つらいかもしれません。でもこれだけ作品を重ねてきて、今回発売されたこの作品は、音道貴子シリーズの完成形といっても過言じゃないくらい、素晴らしい作品に仕上がっています。

評価は文句なく、★★★★★。いつもなら前作まで読んでないとわかりにくいお話は評価を下げるのだけど、それを考慮しても満点評価以外はありえないくらいの作品です。
まさに音道貴子シリーズ、ここに極まれり!って言うほかありません。