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野沢さんオリジナルの「その男、凶暴につき」:烈火の月

烈火の月
烈火の月
posted with amazlet on 07.02.22
野沢 尚
小学館
売り上げランキング: 76562
おすすめ度の平均: 4.5
5 野沢版「その男、凶暴につき」
4 何か大切なものを失った男の逆襲


この本を読むまで、映画「その男、凶暴につき」の脚本を野沢尚さんが書いたなんて知りませんでした。あとがきにはその辺の経緯を野沢さん自身が書かれていて、要約をすると最初は深作欣二監督で撮られるはずだったオリジナルの脚本だったのですが、結局北野武が監督をすることとなって、その内容も現場での即興的な変更を重ねて原形をとどめないような形で映画として仕上がったんだそうです。
で、野沢さんはそのリベンジというわけではないのでしょうけど、自分が手がけた脚本を小説という形で再び世に問うたという意味合いが強い作品が、この『烈火の月』という作品です。
だからこの本は「その男、凶暴につき」のノベライズでもなんでもなく、野沢さんオリジナルの小説なんです。


千葉県にある架空の愛高市という街がこの物語の舞台。愛高市は東京アクアラインの開通で人口が急増、それに伴って犯罪も急増かつ凶悪化しているのですけど、それに警察組織が追いついていかないのが現状です。
そんな中、組織化からはみ出し、凶悪さを心に飼っている我妻諒介は、愛高署の必要悪として刑事として勤務しています。我妻は麻薬の売人の殺害事件を担当することになるのですが、実はこの事件が後に愛高署だけではなく県警トップを揺るがす大スキャンダルに発展していくことになるのです。我妻は捜査途中で知り合った女麻薬Gメン烏丸瑛子とともに、組織から見放されながらも果敢に麻薬密輸業者と、警察組織に立ち向かっていくのです。


ハードボイルドは基本的に好きなジャンルなんですけど、この本の中に頻繁に登場するどぎつい暴力シーンや性描写は目を背けたくなります。でもただ汚い表現で埋められているような安っぽい下劣小説とは違うんです。とてもリアルだからこそ目を背けたくなってしまう。野沢さんがここまで書くのかぁ・・・ってかなりびっくりしてしまいました。でも、ひどいシーンとは逆に、我妻が自分の娘を優しく見つめるまなざしや、密売人に捕まってヘロイン中毒にさせられた瑛子を必死に介抱する姿に、ただ凶暴なだけではない我妻諒介の人間的な面を感じることができてほっとさせられます。まさに野沢さんのピカレスクロマン。


評価は★★★★☆。
こういうすばらしい作品を書ける野沢さんがどうして自分から逝ってしまったのか、もう野沢さんの新しい作品が読めないなんて思うと、本当に残念でなりません。